これは友達の話なのですが…
10年勤めた会社を辞めて転職した話をしたいと思います。要点だけ読みたいヒトは「退職理由」のところからどうぞ。
Kさんについて
まずは友達(Kさん)について話しておきましょう。
Kさんはタイのバンコクで生まれました。所謂、帰国子女です。ですが、特に現地校を行ったわけではないので語学力が高いわけではありません。小さい頃から落ち着きのない活発な性格で、スポーツは器用にこなす子供でした。詰めの甘さとちゃっかりさは末っ子感があります。
小~中学校時代
小学校から中学後半までバンコク日本人学校に通っていました。日本人学校は駐在でタイに来ている人たちのご子息ご令嬢が通う学校です。Kさんはその集合の中で古くからいるヌシ的な存在でした。成績は中の中。理系がちょっと得意ぐらいのポジションでした。
よそ者に厳しい日本社会とよそ者のKさん
Kさんは特に将来のことも考えずに、のんきにバレーボールとバスケットをして過ごしていました。そんなある日、中学2年の終わりに日本の公立学校に転校します。そして日本の学校で高専への推薦基準であるオール4を逃してしまいました。今まで5だった技術家庭科って一学期だけで急に3になることあるの?え?
定性的なものと定量的なもの
技術家庭科では成績を落としましたが、体育の先生には才能を見いだされ陸上部で砲丸投げを2ヶ月やって県大会5位入賞しました。体育の先生天才かよ。陸上競技は記録で勝負する物が多く、それは入試における学力試験も同じでした。内申点などという「お気持ち」ではなく、テストで点をとったろうやないかい。ということで入試に向けて勉強をはじめました。10月ごろから。学力は志望校の東京高専に偏差値10ぐらい足りない状況でしたが、体力があったので入試勉強をして無事合格しました。
Kさん「やればできるやん。俺。」
Kさんは定量的なものを扱う理系に憧れと救いを見出しました。晴れて東京高専に入学したKさんは高専生として平凡な日々を過ごすのでした。
学生時代
Kさんは国立東京高専に入学しました。高専では一年生のときは学科の隔てがなく共通クラスで、2年次に配属が決まるシステムでした。Kさんは入学当初から情報工学科を志望していたので、迷わず情報工学科を選びました。理由は「偏差値が一番高いし、これから伸びそうな分野だから」。めっちゃ適当です。
情報工学科とはITというよりもComputer Scienceを学ぶ学科でした。なのでプログラミングのみならず電気・電子工学、情報通信、組み込みなどの科目があります。Kさんは情報通信研究室で超音波風速計のハードウェア設計と空間の風速算出の研究をしていました。ここまで聞くと真面目な学生に見えますが、実際は
・1年 ネトゲに足を引っ張られつつなんとかGPA3.8程度で上位の成績をキープ
・2年 うっかり文化祭実行委員に両足を突っ込み成績は右肩下がり。
微分積分の期末試験を6点を叩き出す。(それまでの貯金を払い出しギリギリC単位)
・3年 懲りずに文化祭実行委員の部門長(企画)にとりくむ。
成績が最下位争いに。4単位を落としつつも進級を決める。
・4年 文化祭実行委員会から足を洗う。冷静に考えてブラック部門だったことに気づく。
成績がそれなりにもどる。失った2年間を取り戻す期間。
・5年 自分を追い込む環境のほうが自身が成長するという事に気づき、スパルタ研究室土居研へ。
指導教官の防衛大と日立仕込みの圧力で一時ヘドロ化するもなんとか卒論をパスして卒業。
とまぁ、最後の方ちょっとがんばったけど割と堕落した高専生活を送ってきました。そんなKさんは高専卒業後、某新幹線特化型大手鉄道会社に入社しました。入社理由は「給料が良かったから」と「社会貢献できるから」でした。とにかく、人生における結構重要な決断の理由が適当なんだよなコイツ。
社会人 在来鉄道時代
入社後、Kさんは在来線の電気通信設備の保守・保全を行う現業区に配属になりました。初めての社会での仕事で様々な失敗をし、同僚に支えられて一つづつ仕事を覚えてきました。年度末の過渡期では夜遅くまで残業したり、上限にあたり闇残業なんてこともありました。しかし、そこには不満はありませんでした。昼休憩がちょっと伸びたり、自分の腕の悪さで手戻りが発生したりもしていたので許容できる範囲です。
どちらかというと上司の嫌味が辛かった。辛い仕事の中でも、一つ大きな工事が竣功し夜明けとともに始発列車を無事走らせることができた瞬間は達成感があります。一緒に工事を進めて、数々の失敗を支えてきてくれた仲間には感謝しきれないですね。その点、上司の嫌味はモチベーションを下げる効果しかないので無価値です。
在来線3年目で仕事も覚えてきて今度は中央装置のある現業区に行きたいな。と思っていた頃に異動の辞令がありました。「車体をちょっと浮かして500km/hぐらいで走る高速鉄道プロジェクト」と書いてありました。たしかに、Kさんは入社から一貫してその夢のプロジェクトへの配属を希望していました。
Kさん「え、いま?」
ちょっと唐突に決まる異動に戸惑いを隠せませんでした。
~夢の鉄道プロジェクト建設部門時代~
Kさんはこの時期が一番会社の仕事がつまらない時期だったと振り返っています。
夢のプロジェクトに配属され張り切って仕事をしていくうちに、日に日に違和感を感じます。Kさん「あれ、プロジェクトってプロマネ的な手法とらないのかな…」そう、このブロジェクトは先人が汗と涙と血で作り上げたPMBOK的な手法を実践していないのである。プロジェクトのゴールは見えず、議論はまとまらず、図面を描けど、前提条件が変わり…
Kさんはサイコパス合理主義者なので「上司のいう事全部きいてたら生産性が低すぎる」と判断し、この職場での行動目標を「スキルアップすること」としました。Kさんは働きながら大学院で修士を取ろうと思い通学圏内の大学院(産業技術大学院大学※)に入学。新しい分野の技術や理論を学び、技術を身に着けました。
※社会人でも履修しやすい時間帯、授業の提供体制で品川駅からも近い大学院です。デザインやマーケティング、ものづくりなどビジネスに関わる様々な分野を学ぶことができます。ユニークな学生(おっさん)と楽しく学生生活を送れます。東京都民なら入学金半額、教育給付金対象のため学費もお手頃(2年間で50万程度)です。
高専で情報工学をベースにものづくりを学びましたが、ここでは創造技術という総合的なものづくり、ことづくりを学びました。ことをつくるための完成評価やマーケットの統計的な分析手法、デザインの基礎など。修了研究ではプロジェクトベースドラーニング(PBL)という研究室でプロジェクトを進めるという取り組みを通してプロジェクト運営理論、テクニックを学びました。
そして失敗しました。
プロジェクト手法を知っていて、それを実践していてもプロジェクトは失敗する。上手くいったプロジェクトの時はチーミングがうまくいっている(n=1)。プロジェクトを進めていくうちにオペレーションミスが発生してもカバーが迅速になりプロジェクトのゴールにたどり着ける。チーミングがとても大切であることを体験しました。そう、Kさんは内申点を取るのが下手くそなように、チーミングがうまくいく場合がとてもレアケースなのである。ビル・ゲイツより年下なのにデジタルに疎い人をみな小馬鹿にしていたのです。そりゃ、対人関係下手だよな。ドンマイKさん。
大学院を修了して、この会社は私とのチーミングの相性が絶望的だ。ということを理解したのだった。
Kさんは以前、ゴリゴリとデジタル化進めてやるぜ!と思っていたけど、それはKさんのエゴだったのだ。
実験センター時代
大学院を修了したあと、辛い暗黒時代を乗り越え、とある山奥の超実験場へ異動になりました。そこでは日々、分からない装置の仕様と格闘しつつ保全やら試験やら対応していました。装置が故障しないことを祈りながら指令に入ったり。試験の概要をしどろもどろになりながら説明したり。説明が足りなかったり、わかりにくかったりしたところを指導されたり。確認不足で協力会社に手戻りを発生させたり。夜中に悴んだ手でナットを締めようとして落として探し回ったり。
大月はいいところでした。山がたくさんあって、自然豊かでいいお店もたくさんありました。職場の同僚もいい人がたくさんいました。思い返せば優しい同僚の顔が思い浮かびます。ああ、彼らに幸あれ。
まあ、人生色々ってとこかな
心残り? 無いって言ったらそんなのウソになるって決まってる
私もまだまだだし システム化だってしてみたいし
楽しいものだってもっとたくさん いろんなモノ作りたいじゃない?
そりゃあ、素敵なツール開発だってね
そういうのできればほんと最高なんだけど
そう ほんと最高
だけどなんだかね ほんと…あーあって感じ
ほんと あーあ……
退職理由
退職のときに「一番の理由」とよく聞かれた。
彼らは我々を人間ではなくシーケンスで動くロボットか何かだと思っているのだろうか。「一番の要因」と原因を追求したくなる気持ちはわかるのですが、人間は複合的に行動決定をします。重みが一意に定まる事はありません。もしかしたら、会社とKさんの「人間の捉え方」の相違が一番の原因だったのかもしれません。
Kさんは人間の意思決定をニューラルネットワークの模式図(下図)のようなもので決まると考えています。様々な要素や状況(事実ではなく認識の場合もある)に人それぞれの価値観でノードや重み、しきい値が設定されています。残念な事に人間であるKさんは自身の意志決定についてそれらの重みやしきい値を完全には把握していません。自身である程度主観評価できるものの、それはバイアスのかかった主観でしかありません。それは会社が求める「退職の要因」としては不十分かつ不要な情報だとKさんは考えているので断定はできなかったのです。Kさんは要因を列挙するにとどめました。
「今の会社を辞めて新しい会社に転職する」という意思決定には複合的な要素が絡みます。ときに結果はシンプルですがプロセスは複雑なのです。Kさんの退職の要素/その課題の当事者を挙げます。
・IT化の遅れ(業務ツール、オペレーションの使いにくさ)/IT部門とマネジメント
・キャリアパスの主導権のなさ/HRとマネジメント
・評価軸と自分スキルのズレ/Kさん
・コミュニケーションコストの高さ/IT部門と全社員
・業績不審/社会とマネジメント
・変化の乏しさ/全社員とマネジメント
・自由度の低さ/全社員とマネジメント
・転職先があること(人材市場)/社会とKさん
これらの要素(=課題)の当事者はほとんどKさんではない。つまり、この課題をKさんが解決することはできません。Kさんはエヴァではないので他者のATフィールドを中和して他者に干渉することはできません。もっというと当事者自体の課題というより、構造的な課題です。ヒトとはそういった構造に身を置くと特徴(=課題)を捉え、その特徴における最適な行動を行い、その特徴がより強化していくものだとKさんは考えています。Kさんは閉塞した組織では進化論における自然淘汰ではなく、ランナウェイによる淘汰が起きていると考えました。
Kさん「ロシア皇帝に保護されていたコーカサスバイソンはロシア革命とともに絶滅したんだ」
構造的な課題は構造(仕組み)を変化させて解決するしかありません。その仕組みを変えられる権限を持っているのが上記の当事者なわけです。だから当事者も難しいわけです。仕組みを変えて起きる不利益は自分の責任になってしまいますから。幸いなことに、現状を維持して今まで支払っているコストについてはお咎めはありません。Kさんが当事者の立場で合理的に行動するならば、変化は好まないでしょう。
ただ、Kさんは大学院でプロジェクトを自分で進めてみたり、他のプロジェクトを見て思いました。プロジェクトや変化はくっそ失敗します。すぐ失敗します。それは、マネジメント経験が豊富でも失敗するし、教授も失敗します。みんな失敗、失敗祭りです。彼らは失敗して立ち上がって「あー、これは失敗したな」と言いながら、また前に進むんです。Kさんはそういうおじさんを見て「かっこいいな」と思いました。Kさんは意志がこんにゃくほど弱いので、きっとこの構造にいたらKさんも保守的になるでしょう。それがKさんは怖かった。Kさんにとって変化できない人間は淘汰されるものという認識があるからです。
これらの課題をKさんの人生から取り除く方法は、変わる見込みのない会社をやめ、上記の課題が解決されているような会社(自然淘汰原理が働く組織)で働くということです。今回の転職はKさんの課題にKさんが真摯に取り組んだ結果だと思っています。
同僚にありがとう。某社にさようなら。そしてすべてのチルドレンにおめでとう。
転職までのプロセス
辞めた理由は上記のとおりです。転職先はたまたまオファーが来て、たまたま面接受けて、たまたま受かった。たまたま受かった会社と今の会社を比較するためにやったことをお話しますね。
転職となると前者と後者を比較してより有利なものを選ばなければなりません。Kさんは本(科学的な適職,鈴木祐 著)を手に取りました。高専時代の友人が参考にした本でした。持つべきは友です。会社にも仲のいい友を作りましょう。仕事が楽しくなります。
ざっくり本の中身を言うと「世の中に適職はない。働いているうちに天職になるものだ。ジョブ・クラフティングを続けていても不満があるなら転職を考えよう。その際は他に有利な会社(組織)に可能な限りバイアスを排除した状態で比較し、最も良いと思われる条件の会社に転職しよう」である。詳しく知りたい方は原著をあたって欲しい。
Kさんはこの本を読んで、マトリックス表を用いて両社を比較し、転職を決定した。以上だ。
気が向いたら、比較検討したドキュメント公開しますね。
現在の仕事は?
とある外資系の半導体メーカーで英語と装置相手に悪戦苦闘しています。
新しい環境はストレスにあふれている。今までの習慣を変えて生活するわけだから当然である。組織の常識も違うがそこには必ず「常識おじさん」を始めとする「マウンティングおじさん」などがいる。しかし某社で鋼の精神力とジムで筋肉を鍛えているKさんはそれらのマウンティングには屈しない。いざとなれば筋肉で制圧できるからだ。
ひとまず、弊社はKPIが示されているのでそちらに注力したいと思う。建前でもKPIを示すのは助かるわぁ。そんなこんなで、Kさんは元気にしております。
最後に
もし、あなたが今の仕事に迷いがあってだれかに相談したかったら連絡をお待ちしております。一人でも多くに人がHappyな人生を送れることを願っています。
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